可久鼓桃の一人同人誌「人間日和」

東京・京橋生まれの神楽坂育ち、78歳の江戸っ子3代目歌人「可久鼓桃(かくことう)」が 自作の短歌・詩・エッセイ・小説を発表する一人同人誌「人間日和(にんげんびより)」

短歌集「十五歳の敗戦」その2

蔦の葉の 校舎に軍靴 走りゐて
 程なく国はあわれ 崩れ落ちぬ


つたのはの こうしゃにぐんか はしりいて
 ほどなくくには あわれくずれおちぬ


ひまわりも うなだれている 敗戦日
 電柱にあるは 「打ちてし止まむ」


ひまわりは うなだれている はいせんび
 でんちゅうにあるは うちてしやまむ


汗染みの 日の丸鉢巻 ほどき捨て
 ギラリ敗戦の陽は 心突き刺す


あせじみの ひのまるはちまき ほどきすて
 ぎらりはいせんのひは こころつきさす

学徒動員でした。大崎・明電舎の中庭で昭和天皇のお声をはじめて拝聴す

平成19年夏


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  1. 2007/10/14(日) 22:18:28|
  2. 短歌集・十五歳の敗戦
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短歌集「命の旅」その3

負ひし子と メルトモとなり かなを打つ
「脳よさすらうな」と 時あやつりて


おひしこと メルトモとなり かなをうつ
 「のうよさすらうな」と、ときあやつりて


静々と 舞殿にふる 桜花
香華声明 ひそと絹ずれ


しずしずと まいどのにふる さくらばな
 こうげしょうみょう ひそときぬずれ

(鎌倉鶴岡八幡宮にて)



あら玉の 東雲の空 陽は走る
同行二人 うたた曼荼羅


あらたまの しののめのそら ひははしる
 どうぎょうににん うたたまんだら

(年の初めのご挨拶)



紫の 花すべてよろしと 言ひてありき
夫の胸許の 傷ぐちを恋う


むらさきの はなすべてよろしと いいてありき
 つまのむなもとの きずぐちをこう


春の道 真夏の陽差し 秋の道
よりそひし小径は 今や片道


はるのみち まなつのひざし あきのみち
 よりそひしこみちは いまやかたみち


残されて 残る思ひの 旅支度
仰ぐ満天の星の 我はひとつぶ


のこされて のこるおもいの たびじたく
 あおぐまんてんのほしの われはひとつぶ


見上ぐれば 満天の星 たらひの湯
草花に笑われ 老天女は湯浴み


みあぐれば まんてんのほし たらいのゆ
 くさばなにわらわれ ろうてんにょはゆあみ


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  1. 2007/08/25(土) 15:59:32|
  2. 短歌集・命の旅
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短歌集「命の旅」その2

あだし野の 果てになげたる あくがれを
かき集め居る 残照の日々


あだしのの はてになげたる あくがれを
 かきあつめおる ざんしょうのひび


陽は真昼 緑風を受け 気をひらき
きめ事もせず 時にたゆたふ


ひはまひる りょくふうをうけ きをひらき
 きめごともせず ときにたゆたう


風光り 四方に生命の 気は満てり
人知れずこそ 紅さして春


かぜひかり よもにいのちの きはみてり
 ひとしれずこそ べにさしてはる 


生き生きて 背なに染みたる 切れぎれの
喜・怒・哀・楽の なんと愛しや


いきいきて せなにしみたる きれぎれの
 き・ど・あい・らくの なんといとしや


つるべ落ちの 生命の光 夢の波
めぐる光陰に ひたすら合掌


つるべおちの いのちのひかり ゆめのなみ
 めぐるこういんに ひたすらがっしょう


楽も苦も 面白かったと 大あくび
あとはオツリと シャレて楽天


らくもくも おもしろかったと おおあくび
 あとはおつりと しゃれてらくてん


地はうねり 川あばれ抜く 大自然よ
新世紀の生命に 何を問うてか


ちはうねり かわあばれぬく だいしぜんよ
 しんせいきのいのちに なにをとうてか


入り相の 鐘の音咽び 江戸風情
朝顔 風鈴 熊手 羽子板


いりあいの かねのねむせび えどふぜい
 あさがお ふうりん くまで はごいた 

(祖母に手を引かれ、毎月、手を合わせた浅草寺。父と飲んだ甘い電気ブラン。叔父と通った国際劇場。すべて幼い日の夢のワールド)


釣瓶取られ 情の河は 荒立ちしが
時を跨ぎて 程良き日和


つるべとられ なさけのかわは あらだちしが
 ときをまたぎて ほどよきひより

(生命の旅は、ありがとうの旅)


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  1. 2007/08/13(月) 17:39:42|
  2. 短歌集・命の旅
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短歌集「竹馬の友等と残照を生きる」

湯の里に 老ひぬる瞳 かがやかせ
竹馬の友等は ひそと優しき


ゆのさとに おひぬるひとみ かがやかせ
 ちくばのともらは ひそとやさしき


いたましき 友の姿に 気が折れぬ
傘かぶりたる 中天の月よ

(今日の人の身、明日は我が身か)

いたましき とものすがたに きがおれぬ
 かさかぶりたる ちゅうてんのつきよ


かひ間見し 友の幸せ 秋ざくら
月の砂漠に 浜風ぞわたる


かいまみし とものいあわせ あきざくら
 つきのさばくに はまかぜぞわたる

(千葉御宿の浜辺にて、優しい御夫婦が暮らす)


幼なじみの ステップゆれて 夜はふけぬ
過ぎこしかたは 夢のまた夢


おさななじみの ステップゆれて よるはふけぬ
 すぎこしかたは ゆめのまたゆめ


それぞれの 背なに現世を背負ひても
同窓の我等 今思い出づくり


それぞれの せなにげんせをせおいても
 どうそうのわれら いまおもいでづくり


江戸弁を たたける仲の 同窓会
夢もロマンも 夕凪にとけて


えどべんの たたけるなかの どうそうかい
 ゆめもロマンも ゆうなぎにとけて


おさな目かわし ゆるく流れる 時のなか
今を忘れて 昔にあそぶ


おさなめかわし ゆるくながれる ときのなか
 いまをわすれて むかしにあそぶ


何はさて 優しさこそが ごちそうと
逢瀬を約し 竹馬等散会す


なにはさて やさしさこそが ごちそうと
 おうせをやくし ちくばらさんかいす

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  1. 2007/08/12(日) 23:50:00|
  2. 短歌集・竹馬の友等と残照を生きる
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短歌集「ニューヨーク吟行」その1

〜1997年夏・アメリカ旅行〜

世界中の光集めて夢を売る
ブロードウェイ宵の万華鏡


せかいじゅうの ひかりあつめて ゆめをうる
 ブロードウェイ よいのまんげきょう


マチネエが捌けてあふれる人をわけ
リムジンがゆく 出前ピザを尻目に


マチネエが はけてあふれる ひとをわけ
 リムジンがゆく でまえピザをしりめに


失いし 時整えて 過ぎる街
ワシントン広場は 青春の庭ならむ


うしないし ときととのえて すぎるまち
 わしんとんひろばは せいしゅんのにわならん


夢求めパッションを食ひ大切な
とき置き土産とせしか ブルックリンの壁に


ゆめもとめ パッションをくい たいせつな
 ときおきみやげとせしか ブルックリンのかべに


アクターズ・スタジオのうす桃色の階段を
撫でてみただけ舐めたい程に


アクターズ・スタジオの うすももいろの かいだんを
 なでてみただけ なめたいほどに


ブロードウェイの光の中で箸をとり
味噌汁すすり 又歩み出す


ブロードウェイの ひかりのなかで はしをとり
 みそしるすすり またあゆみだす


欄に せまる女神像と 握手したし
ハドソン川のディナー・クルーズ


おばしまに せまるめがみぞうと あくしゅしたし
 ハドソンがわの ディナークルーズ


ステンド・グラスの 明暗の内に 魂鎮まる
壁に聖人集う セントパトリック教会


ステンドグラスの めいあんのうちに たましずまる
 かべにせいじんつどう セントパトリックきょうかい


ハドソン川より のぞむ摩天楼に 千切れ雲
かずかずの窓に アメリカン・ドリーム


はどそんがわより のぞむまてんろうに ちぎれぐも
 かずかずのまどに アメリカン・ドリーム 


やがて、時は流れた・・・


且て仰ぎし あの摩天楼よ 街角よ
自由の國の 生命飲み込みぬ


かつてあおぎし あのまてんろうよ まちかどよ
じゆうのくにの いのちのみこみぬ


ひたすら、天に祈るのみ


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  1. 2007/07/26(木) 22:15:02|
  2. 短歌集・ニューヨーク吟行
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短歌集「命の旅」その1

短歌集「命の旅」その1

とまどえば 紙に向かうなり
 涙あらば インク滲ませ 一人ゐの詩


とまどえば かみにむかうなり
 なみだあらば インクにじませ ひとりいのうた

16歳の秋・・・


入り潮の 香もなく ネオンの波ばかり
 迷いカモメか ここは数寄屋橋


いりしおの かもなく ネオンのなみばかり
 まよいカモメか ここはすきやばし

チンチン電車(市電)にゆられ、築地から牛込見付(神楽坂下)まで津久戸小学校に通学した。早朝、数寄屋橋の上をカモメが飛んでいた



風立ちて いざ添え木せむと庭に立てば
 抜きかねてありし 母小草咲きぬ


かぜたちて いざそえぎせんと にわにたてば
 ぬきかねてありし ははこぐささきぬ

亡夫一周のおりに


松風を わけてぞすぐる 古希の関
 ぬくもり運ぶ 足跡の詩


まつかぜを わけてぞすぐる こきのせき
 ぬくもりはこぶ あしあとのうた


ここまで来た、これからも行く、ありがとうの旅路


つき離し 見まわすことを おぼえたり
 ふりみだし来し 髪ととのえて


つきはなし みまわすことを おぼえたり
 ふりみだしきし かみととのえて

一人息子、結婚す


かにかくに 不惑知命は 汗まみれ
 負ひ来し荷解き なさけの湯あみ


かにかくに ふわくちめいは あせまみれ
 おいきしにとき なさけのゆあみ


また一つ関の戸をあけた、生き方を整え歩みだす。


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  1. 2007/05/13(日) 21:04:32|
  2. 短歌集・命の旅
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詩「母の日」

詩集「いきいきて」

母の日

母の日とは、年に一度、花屋の店先で
赤と白のカーネーションが、隣に香る蘭の花に
誇らしげな流し目を送る日。

母の日とは、子を生まぬ妻が遠慮がちに
あたえられずに来た淋しい胸に
白いカーネーションをそっと飾る日。

母の日とは、子と別れた母親が、
今更どうにもならぬに、
今日、子供の胸に何色の花が飾られるのやらと
乳房の痛みを悔いつ託(かこ)つ日。

母の日とは、社会の裏に、ひそと流れた
女の赤い涙と白い涙が花を染め、
今日一日、男の人が、
自分を生んだのは、女だったことを思い知る日。


(昭和45年5月10日 商いの日々の中で)


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  1. 2007/05/13(日) 20:36:26|
  2. 詩集・生き生きて
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短歌集「十五歳の敗戦」その1

禁じられ来し 知識求めて さすらひし
 焼け跡の街 新宿紀伊国屋


きんじられきし ちしきもとめて さすらいし
 やけあとのまち しんじゅくきのくにや

例年より熱かった夏、ショーロホフの「静かなドン」を買った。洋画上映館で二本立ての合間に流れるジャズのリズムに酔った。



新しき 紙とインクの 香に酔ひつ
 立ち読み 夕焼け 焼け跡の街


あたらしき かみといんくの かによいつ
 たちよみ ゆうやけ やけあとのまち

現在の新宿歌舞伎町は原っぱだった。映画館「地球座」がポツンと最初に建った。


八月の 敗戦の日 唯うつろ
 燃え尽きし涙 見る間に干えゆく


はちがつの はいせんのひ ただうつろ
 もえつきしなみだ みるまにひえゆく

学徒動員。紅(くれない)の鉢巻をかなぐり捨てた日、勤労動員されていた明電舎大崎工場の中庭に、若い生命が不安げに肩寄せあっていた。


戦火あびし 桜の老木 唯一本
 けなげに息す 校庭の夕べ


せんかあびし さくらのろうぼく ただいっぽん
 けなげにいきす こうていのゆうべ

桜の木の下。母校附属の幼稚園児のあどけないお遊戯が忘れられない。



つたの葉の からみてありし 赤レンガ
 新宿西口 焼け跡の校舎よ


つたのはの からみてありし あかれんが
 しんじゅくにしぐち やけあとのこうしゃよ


この校舎の中にも戦時中、学校工場があった。兵士が腰につけた長いサーベルの音は冷たく乾いていた。


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  1. 2007/04/30(月) 22:44:02|
  2. 短歌集・十五歳の敗戦
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短歌集「神楽坂慕情」その1

短歌集「神楽坂慕情」その1

「神楽坂慕情」

ふるさとを 思えば聞こゆ 神楽ばやし
 坂をのぼれば 毎夜縁日


ふるさとを おもえばきこゆ かぐらばやし
 さかをのぼれば まいよえんにち

かつて縁日でにぎわった神楽坂通りは、昔の肴町までぎっしりと露天商でうまっていた。


縁日の 口上に酔うて 通ひつめれば
 おじさんがくれた バナナ一本


えんにちの こうじょうにようて かよいつめれば
 おじさんがくれた バナナいっぽん

バナナの叩き売りが大好きだった。人の足の間をくぐって必ず最前列。


花街の 朝の空気は 気だるくて
 夕べ縁日 本の立ち読み


はなまちの あさのくうきは けだるくて
 ゆうべえんにち ほんのたちよみ

私の育った店の前には、雨さえふらねば、毎日本の露天商が出ていた。
立ち読みをしても、店のおじさんは叱らなかった。


父も叔父も 同窓として 生き生きし
 津久戸の丘の 白き学び舎


ちちもおじも どうそうとして いきいきし
 つくどのおかの しろきまなびや


現在は新宿区立だが、かつては牛込区立津久戸小学校であった。


代々の 情けしみつく 神楽坂
 のぼる足許に 血煙りぞ舞う


だいだいの なさけしみつく かぐらざか
 のぼるあしもとに ちけむりぞまう


三代目神楽坂育ち。


かつてありき 演芸場前 ぶらぶらり
 ふと志ん生の声 風の間にまに


かつてありき えんげいじょうまえ ぶらりぶらり
 ふとしんしょうのこえ かぜのまにまに

「神楽坂演芸場」に小学校一年生より祖母に連れられ通った。
演芸場には友人がいて、舞台の袖でそっと座っていた日もあった。


お向ひの 店の奥から 手をばふる
 父が見えたり ここは龍公亭


おむかいの みせのおくから てをばふる
 ちちがみえたり ここはりゅうこうてい

神楽坂通り商店街に今でもある中華料理店「龍公亭」はかつて「あやめそば」と言われ、
現在もメニューには「あやめそば」がある。


あやめそば 向ひの店は 世今堂
 神楽坂上 夏の世の夢


あやめそば むかいのみせは せこんどう
 かぐらざかうえ なつのよのゆめ

私の育った時計眼鏡貴金属店「世今堂」は、明治・大正・昭和、三つの時代の暖簾であった。


それなりの 道をたどれば 足の裏を
 もぞとくすぐる ふるさと神楽坂


それなりの みちをたどれば あしのうらを
 もぞとくすぐる ふるさとかぐらざか

ふるさと神楽坂よがんばれ!


うたかたの 過去がすいつく 石畳
 足裏くすぐるか ふるさと神楽坂


うたかたの かこがすいつく いしだたみ
 あしうらくすぐるか ふるさとかぐらざか

大好きなふるさと神楽坂の石畳に、扇模様のすべり止めを刻む石工さんの姿が忘れられない。


桜散るなよ やがて左づまとる 友達の
 宿題を解いていた 夕暮れの校舎


さくらちるなよ やがてひだりづまとる ともだちの
 しゅくだいをといていた ゆうぐれのこうしゃ


私は国民学校第一回卒業生、そして、太平洋戦争が始まった。
あの夕べ、やがて花街で暮らす友が心配であった。


坂のある ふるさと詣で 神楽囃子
メンコ、ベーゴマ 切れぎれの夢


さかのある ふるさともうで かぐらばやし
 メンコ ベーゴマ きれぎれのゆめ

神楽坂を登り切り、今もある「毘沙門様」と呼ばれる寺内が遊び場であった。
女であっても、メンコ、ベーゴマ、戦争ごっこが大好きなお転婆でした。


桜咲き 東京音頭に  浮かれ出で
半玉さんの カンザシゆらり


さくらさき とうきょうおんどに うかれいで
 はんぎょくさんの かんざしゆらり


半玉(はんぎょく)とは、まだ一人前として扱われず、玉代(ぎよくだい)も半人分である芸者さんのこと。芸者の卵。


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  1. 2007/04/25(水) 22:01:18|
  2. 短歌集・神楽坂慕情
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