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短歌集「十五歳の敗戦」その1

禁じられ来し 知識求めて さすらひし
 焼け跡の街 新宿紀伊国屋


きんじられきし ちしきもとめて さすらいし
 やけあとのまち しんじゅくきのくにや

例年より熱かった夏、ショーロホフの「静かなドン」を買った。洋画上映館で二本立ての合間に流れるジャズのリズムに酔った。



新しき 紙とインクの 香に酔ひつ
 立ち読み 夕焼け 焼け跡の街


あたらしき かみといんくの かによいつ
 たちよみ ゆうやけ やけあとのまち

現在の新宿歌舞伎町は原っぱだった。映画館「地球座」がポツンと最初に建った。


八月の 敗戦の日 唯うつろ
 燃え尽きし涙 見る間に干えゆく


はちがつの はいせんのひ ただうつろ
 もえつきしなみだ みるまにひえゆく

学徒動員。紅(くれない)の鉢巻をかなぐり捨てた日、勤労動員されていた明電舎大崎工場の中庭に、若い生命が不安げに肩寄せあっていた。


戦火あびし 桜の老木 唯一本
 けなげに息す 校庭の夕べ


せんかあびし さくらのろうぼく ただいっぽん
 けなげにいきす こうていのゆうべ

桜の木の下。母校附属の幼稚園児のあどけないお遊戯が忘れられない。



つたの葉の からみてありし 赤レンガ
 新宿西口 焼け跡の校舎よ


つたのはの からみてありし あかれんが
 しんじゅくにしぐち やけあとのこうしゃよ


この校舎の中にも戦時中、学校工場があった。兵士が腰につけた長いサーベルの音は冷たく乾いていた。


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プロフィール

可久鼓桃

Author:可久鼓桃
東京・京橋生まれの神楽坂育ち。
江戸っ子3代目。
昭和4年生まれの88歳。
短歌、詩、小説、絵画など幅広く表現。
運命鑑定家でもある。

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