2010/02/26
ここは五反田・病院の個室にて
ここは五反田~病院の個室にて~
ここは五反田。かつて駅の隣にキャバレーがあった。そのキャバレーは駅の壁に寄りかかり、ネオンの光をべたべたときらめかせていた。キャバレー「カサブランカ」だと記憶している。終戦時、日の丸はち巻にモンペ、父に持たされた鉄カブト等々のいでたちにて、隣の大崎駅前、明電舎内中庭にて、戸惑いの涙に我々一同、身を浸した敗戦。何の打ち合わせもないまま、皇居前に参集して、玉砂利をつかみ号泣す。先の見通しもなく、我々の青春の幕は、よたよたとあがって行った。怖さより時が怖さをもつかみ、引きずって行ったものだ。
只今、八十路に入り、股関節にメスが入った。人口股関節置換手術である。去年の脊椎管狭窄症の手術に続くものだ。数年前には両目にレンズを入れている。身体の一部がサイボーグ化してゆくようだ。がむしゃらに命を削った過去よ。この老いし夢追い人に、人の世の味を加味し、再びの夢追い人として立ち上がる知恵と力を与え給えかしと・・・。
(可久鼓桃)