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詩歌集「ぐれいん」

詩歌集「ぐれいん」

 昭和四十年十二月、川崎駅前にてトンカツ店「ぐれいん」開業
 「grain」とはドイツ語で「穀物」という意味
 日々の糧を得るという意味で店名を「ぐれいん」とする
 

短歌 

 花も実も 青空も見上げず トンカツを揚げてをれり
 この道より 暮らす道なし 一筋に生きんか



散文詩 昭和四十年十二月五日

 今日からあたしゃとんかつ屋
 白いシャッポをチョコンと乗せりゃ
 度胸と愛敬でひと稼ぎ
 色んな目付きに囲まれて
 いろんな世間をかい間見る
 いらっしゃいませ、ありがとう

 今日からあたしゃとんかつ屋
 泣きたい程の淋しさも
 疲れる身体を忘れましょう
 坊やの笑顔でひと稼ぎ
 ほんに今日からとんかつ屋
 いらっしゃいませ、ありがとう



散文詩 昭和四十年十二月二十日

 つかの間のまどろみにも、とんかつの夢を見たり
 キャベツ畠で豚に追われたり
 ナイフの橋をかけ抜け、フォークの櫂に皿の舟
 玉ネギの畠にて、なおも追う豚は、力尽き豚座。
 これぞ、私の今をささえるメルヘン



散文詩 昭和四十年十二月二十五日

 煩わしきは、かき揚げに
 希みは、一口かつより
 うぶなレモンは、かぐわしき思ひ出
 マスタードは、浮世への風刺
 キャベツの千切りは、細やかなる心くばり
 すべてを定食としてまとめ
 ああ、かくて真白き皿と共に
 日々の我が労働に
 心よりの祝福を送らむかな


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「人間日和」を評論していただきました

「人間日和」を評論していただきました

 当ブログ 【可久鼓桃の一人同人誌「人間日和」】がブログ評論家タキタローさんの「わたし、ブログ評論家です」で取り上げられ、数々のおほめの言葉をいただきました。可久鼓桃本人も「続けていて良かった」と、とても喜んでおります。連載小説、短歌共にどんどん掲載してゆく予定です。なお、リンク集に「わたし、ブログ評論家です」を加えさせていただきました。

 評論の内容はこちらからリンクできます。読者の皆様にも是非読んでいただきたいと思います。今後とも、ブログ【可久鼓桃の一人同人誌「人間日和」】をよろしくお願いいたします。


 ブログ【可久鼓桃の一人同人誌「人間日和】管理者  新岳大典

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連載小説「神楽坂」第16回

連載小説「神楽坂」       第15回

第16回

 あの八月の朝、明電舎の三階の仕事場で、汗でべったりと濡れた日の丸鉢巻きをきりっと結び直した丁度その時、スピーカーから全員集合の指令。すり減った運動靴を引きずり一階の中庭へ、ねずみ色の階段を怪訝な面持ちでぞろぞろと降りてゆく。
  「天皇陛下の玉音放送が御座います。」と工場長の重々しい声。
 一瞬ざわめいた群衆も緊張して静まり、不透明な空気の中、国民がはじめての陛下の沈痛なお声が細く清冽に流れてゆく。我々は一人、また一人その場に蹲る。腹の底から唸り声をあげ、高まる憂憤の情は堰を切って、日の丸鉢巻きを地べたへ叩きつけ、握る拳を震わせる男子学生。
 ハルは、足を踏み締め腕をさすり、今の命を確かめたが、空白になってゆく頭の中は、瞬時に区切られて頼りない。工場の機械の音は消えて、午後は解散。大崎のホームに立ち、私達はまず宮城前広場へと目で頷き合う。その時、ホームの柱の陰で何が可笑しかったのか、甲高い声張り上げ、ゲラゲラと級友が笑った。その声に素早く駆け寄り、笑う女子の顔に男子生徒の平手打ちがとんだ。
 誰もがやり場なく途方にくれ、動員学徒等は泣くエネルギーもなく、惚けた目を寄せ合ったこの日、激しい目の前の光景は過去への決別であったのか。
 やおら、その空気を破り、平手打ちの男子生徒は、声を限りに叫んだ。
  「何が可笑しいのか、今日は、今日は笑っちゃいけないのだ。せめて今日だけは」と、ホームの柱に血の滲む程身体を叩きつけ慟哭した。打たれた級友は、防空頭巾の紐を引きちぎり、全身を震わせて泣いた。ホームの動員学徒は耐えかねて一斉にに号泣した。それは、もうどこえなりと、と急に解き放され、行き場に迷う青春の咆哮だった。

 昨日まで燃えて組み合って来た肩を、今日は頼りなく寄せ合って、宮城前広場に集まり正座する。玉砂利を握りしめ二重橋に向かい、こうべをたれれば、涙があふれて止まらない。誰も喋らず、あちこちに忍び泣く声がうずまいている。
 「将校さんが切腹した」と遠い所で誰かの叫ぶ声。
 ひもじいお腹をかかえながらも、一人として立ち上がらぬ、ひたすら従い夢中で生きた月日が、ここに座ってさえいれば無駄にならぬ気がして、返事の返る筈もない雲居の果てをひたすら見つめるだけであった。  
 この日を境に、父は終戦ボケとなり、母は甦って逞しくなっていく。次々と偉かった人が自決し、小さな子供等の間には「お山の杉の子」の歌が流行っていた。
     
 (つづく)

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連載小説「神楽坂」第15回

連載小説「神楽坂」       第14回

第15回

 今日はまだ警報が鳴っていない。警報に出会うと電車が止まり、酷い日は線路の上を小犬の様に歩く。肩からかけた水筒と、手縫いの布カバンの中には、米と梅干しと味噌。父が無理に持たせる防毒マスク。赤チン、メンタム、三角巾。唐草の大風呂敷に、手放せぬ愛読書一冊。背中に廻した防空頭巾。これも父が無理に持たせる鉄兜。
 「鉄兜は顔が洗えて飯が炊け、水を汲めば火が消せる」と父はしつこく言う。
 身体を取り巻く七つ道具は、明日をも知れぬ青春の肩に食い込み、飛行機雲が真綿を引きのばしたように浮かぶ日本の空を仰ぎ、神風は本当に吹いて呉れるのだろうか、なぞと。

 中央線は意外にスピードを出して走るから、国分寺廻りで家に帰る。遂に三鷹の少し手前で今日も無慈悲な警報が鳴った。三鷹の駅で停車。乗客は改札口から駅前の防空壕へ。馴れた足どりで素早く待避。はるかの空から翼を連ねた大編隊がごうごうと音高くやってくる。壕の入り口にいたハルは、広場の中央に叫び声をあげる白い塊を見つけた。人間だ。割烹着を着たお婆さんだ。「白は殺られる!」。咄嗟にハルは七つ道具をかなぐり捨て、カバンの底から唐草の大風呂敷を引きずり出し、急いで被る。教練の時間に習った匍匐前進で震える白い塊へと近づき、両手に掴む大風呂敷を我が身諸共がばと覆いかぶせた。
 「動けますか」聞いてみるが目をむいて取り縋るだけ。
 「少し苦しいけれど、我慢してください」
ハルはお婆さんの身体の下に潜り、風呂敷を飛ばぬようにしっかり掴み、お婆さんを背に乗せたまま、じりじりと這いつづけた。やっと防空壕に辿り着いた。すると、壕の中で拍手が渦巻いた。見る間に広場も防空壕の周辺も、低空で飛ぶ敵機のあげる土煙りに包まれた。壕の奥で「中島飛行機がやられるな」と誰かの声。
 お婆さんは鼻水を啜りハルに手を合わせた。ハルは照れて大きな目を擦ると、今頃になって身体がぶるっと震えた。手持ちの梅干しを一つ囓り、水筒の水を喉を鳴らしてごくんと飲んだ。警報解除に、今日も助かったかと、動き出す電車に乗る。気が付くともんぺにつけた大切なピンクのリボンが無くなっていた。
    
 (つづく)  第16回へ

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プロフィール

可久鼓桃

Author:可久鼓桃
東京・京橋生まれの神楽坂育ち。
江戸っ子3代目。
昭和4年生まれの88歳。
短歌、詩、小説、絵画など幅広く表現。
運命鑑定家でもある。

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